第13章 慟哭
こぶしを握りしめ、彼女から身体を離す義勇。
……煉獄め
悔しそうな表情を見せた。
『四十九日まではこいつの側に居るのか』
義勇は誰もいない正面を見て、心の中で問いかける。
『夜月の中でお前の存在は大きい。それはわかってる。だが、生きてこいつの側にいるのは、俺だ。これからは俺がこいつの泣き場所になってやる。しっかり泣かせて、その涙も拭いてやる』
琴音の布団を隔てた向こう側に、義勇は杏寿郎の姿を見た。
『俺が絶対にこいつを守る。……だから安心して、俺に任せろ』
無論、杏寿郎からの返事はない。
寂しい。
そんなことを思った。
義勇は眠る琴音の顔を覗き込んだ。
「どうやら目付け役がいるようだ」
そう囁きながら顔を近付けて、琴音の頬に優しく口付けをした。彼女が先程流した涙を唇ですくいとる。
「だから、これで勘弁してやる」
もしこの子が起きていたら、どんな反応をしただろう。そんなことを考えながら琴音を見つめた。
驚いて目を丸くしただろうか。
何すんのよ!と怒っただろうか。
顔を赤くして、わたわたと慌てただろうか。
どんな反応だったとしても、義勇はその全てを愛おしいと思う確信がある。
今は午前中だが、おそらく昼過ぎまで琴音は起きないだろう。
この子が起きたら、まずはご飯を食べさせよう。消化がよくて栄養のあるものを入れたお粥を千代に頼もう。
そうだ、甘味でも買ってきてやるか。
前のように笑ってくれるかはわからないけれど、少しは喜んでくれるかもしれない。
義勇は琴音をじっと見つめながら思考を巡らす。心の中が彼女でいっぱいになっていることに気が付き、驚いた。まさか自分がこんなに風になるとは。
「今は、ゆっくり休め」
そう声をかけ、義勇は静かに部屋を出ていった。