第13章 慟哭
おそらくほとんど睡眠をとっていなかったであろう琴音。すやすやと眠る少女に起きる気配は全くない。
少し焦る義勇。
……どうしたものか
彼女の寝起きの悪さを思い出す。
しばらく起きないことが予想され、しかも覚醒までに時間もかかるとみた。
ここは一度布団に寝かそうかと思い、彼女の体勢を少し変えてみる。横抱きにしようと左腕に琴音の頭を移動させると、されるがままに力なくこてんと腕に小さな頭が乗っかった。
閉じられた目は涙で光り、赤みを帯びている。小さくて発色の良い唇は薄く開かれており、まるで義勇を誘っているかのようだった。
こんなものを間近で見せられて、平静を保てという方が無理な話だろう。流石の冨岡義勇でも心拍数が跳ね上がった。
義勇はぐっと上体を反らし、彼女から距離を取った。頬を朱に染めたまま、琴音をあまり見ないようにして抱き上げる。
そのあまりの軽さに驚きつつ、彼女の為に用意した部屋へと運んだ。
押し入れから布団を出し、彼女を横たえる。
寝やすいようにと結紐を解いてやると、顔に栗色の髪がかかってしまった。煩わしいのか、眉を寄せる琴音。
義勇は指でそっと髪を退けてやる。柔らかな髪と肌に触れることで、彼の心臓がまたドクンと音を立てた。
……何をされても文句は言えないと、以前に忠告したはずだ
義勇は琴音を見つめる。
その忠告を無視したのは、お前だ、夜月……これは、どう考えてもお前が悪い………
そんな言い訳を考えつつ、義勇は琴音にゆっくりと顔を近付けた。
義勇の唇が琴音の唇に触れようとしたその時、不意に彼女の口が小さく言葉を発した。
「杏寿郎…さん……」
そして、閉じられた彼女の目から溢れる一筋の涙。義勇の動きがピタリと止まった。