第13章 慟哭
頭にぽんと置かれた大きな手が温かい。
琴音はまとまらない思考の中でポツリポツリと言葉を紡ぐ。
「だって、私が、やらなきゃ……」
「うん」
「皆、悲しい、し、……しっかりしなきゃ…て、」
「うん」
「私が、弱ったら、みんな、が、心配……す…から、」
「うん」
「……っ、きょ…じゅろさん……起きて、くれない、し……うっ、くっ……私が…っ、」
足の上で固く握られた琴音の手の上に、彼女の涙が落ち始めた。
「よく頑張ったな」
義勇の優しい声が、琴音の心に届いた。まるで安らかな琴の音のように、真っ直ぐに響いてきた。
「もういいんだ。大丈夫だ」
「冨、岡……」
「我慢するな。泣いていい」
「……っ、……うっ、うっく、……」
「そうだ。存分に泣け」
義勇は琴音の腕を引き寄せ、そっと抱きしめた。震える背中を擦ってやる。
すると、堰を切ったように琴音は泣き出した。義勇の背に手を回し、助けを求めるかのようにしがみついて泣く。ここまでずっと堪えてきたものが一気に溢れ出し、赤子の如く泣きじゃくった。
「うわぁぁぁーん、杏寿郎さん、杏寿郎さん、嫌だ、嫌だよ……なんでっ……いきなり居なくなっちゃうなんて、ずるいよ……わぁぁぁん」
自分に縋り付きながら他の男を想って泣く琴音。義勇としては複雑な状況ではあるが、彼女の張り詰めていた堤防を壊せたことと、泣き場所を失った彼女にその場所を提供できたことに安堵した。
義勇が驚く程に号泣する琴音。その間ずっと、かけられない言葉の代わりに、彼女の黒い羽織と結紐を見つめながら背中を擦ってやった。
次第に彼女の腕の力が弱まっていく。おや、と思うと、琴音は泣きつかれて義勇の胸に体を寄せて眠っていた。
……また、こいつは……
義勇は少しため息をつく。
……男の腕の中で無防備に寝るなと言っただろう
そう思いながら、彼女をよいしょと抱え直した。胸元から琴音の寝息が聞こえる。安らかなものであるようだ。
彼女の髪や羽織から、ふわりと香の匂いがした。彼女は杏寿郎の死後、位牌を前に毎日手を合わていたのだろう。涙を流したりすることなく、届かない想いを人知れず話しかけながら。
眠る彼女を抱えて、義勇もそっと目を閉じる。彼女の香の匂いに乗せて、静かに黙祷をした。