第13章 慟哭
そこへ、千寿郎が本を持って戻ってきた。しかし中身がズタズタに破かれており、読むことはできなかった。
「うーん。私も、読んだことはないんだよねぇ。煉獄家の物だからさ」
「そうですか」
「すみません、父が」
「いやいや、千寿郎さんが謝ることじゃないです!」
「ヒノカミ神楽や日の呼吸についても、わからないままになっちゃったね」
琴音と千寿郎が申し訳無さそうにするが、炭治郎は大丈夫だと言い切った。
そして、もっと鍛錬して強くなる、近道なんてない、足掻くしかないと決意を述べて、「杏寿郎さんのような強い柱に、必ずなります」と真っ直ぐ前を見て宣言した。
彼のその目には涙が浮かぶ。
悔しさと悲しさは、痛いほどに握りしめたその手のひらに込めて。
琴音は、そんな炭治郎を見て思った。
……杏寿郎さんが守りたかったのは、これだよね。大丈夫、ちゃんと炭治郎くんに伝わったよ。あなたの想いも、きっとずっとこの子が持っててくれるよ。よかったね……
「うん。君なら出来るよ。必ず」
そう言って炭治郎に微笑みかけた。
炭治郎が帰る時、千寿郎が杏寿郎が愛用していた鍔を彼に差し出した。
「い、いただけません、こんな大切なもの……俺は……」
炭治郎は慌てて断るが、「持っていて欲しいんです」と千寿郎に言われて戸惑った顔を見せた。千寿郎の隣りに立つ琴音にちらりと目線を送る。
「もらってあげて、炭治郎くん」
「琴音さんが持っていた方が……」
「私は、いいの。杏寿郎さんは想いを託した君に持っていて欲しいと思うよ」
「…………」
「きっと、あなたを守ってくれると思います」
「私もそう思う」
二人に言われ、炭治郎は千寿郎の手からそっと鍔を受け取った。
「ありがとう……」
炭治郎は帰っていった。
「千君、偉かったね」
「はい……」
「お家、戻ろう」
「……はい」
ぽろぽろと涙を流す千寿郎の手を引いて、家に戻る琴音。
「琴音さん、炭治郎さんは兄上の想いを継いでくださるのですよね」
「うん。杏寿郎さんは、炭治郎くんの中でこれからも生きていくんだよ。大丈夫」
「はい……、うわぁぁぁん……」
「よしよし」
琴音は千寿郎を抱きしめて撫でてやった。