第12章 年下の男の子
「型なら、俺がいつでも教えてやる」
「あはは、どーも」
「水は女でも使いやすい」
「やだ。炎の方がかっこいいもんね」
「……聞き捨てならないな」
村田から返却された琴音の深紅の羽織が、屋根の上の風に吹かれて揺れた。
これは、琴音の育手が着ていたもの。まるでこれを羽織ることで「自分は炎の剣士だ」と自分に言い聞かせているように義勇は感じた。
……頑固、負けず嫌い、そして意地っ張り
自分も不器用だが、この娘も相当不器用な生き方をしている。しかし、その想いは強く、ぶれることはない。琴音のそんなところが好きなんだなぁと義勇は思う。
「うぎぎぎっ………、なあ、炭治郎」
「なんだ?善逸」
滑車で岩を引っ張り上げながら、善逸が炭治郎に話しかけた。
「あそこにいるの、水柱だよな」
「うん。冨岡さんだ」
「……あの二人、よく一緒にいるよな」
「そうか?」
「二人で話してる声が、たまに、聞こえる」
「へぇ」
ぜぇぜぇ……と息を荒くした善逸が、岩をおろしてへたり込む。炭治郎が水を差し出して、善逸は一息ついた。
「付き合ってんのかな」
「えっ?!そうなのか?」
「いや、知らんけど。今も並んで座ってるし」
「そう……なのかな?」
「匂いでわかんねぇの?」
「恋情の匂いは、しない気がする。善逸こそ、音でわからないのか?」
「うーん……二人とも熟練者だからな。そういう人達って感情隠すのも上手いじゃん」
善逸と炭治郎が小休止をする様子を見ながら、琴音は首を傾げる。
「ん?炭治郎くんたち、なんかこっち見て話してる」
「…………」
「なんだろ」
「…………」
「冨岡の悪口かな」
「なんでだ」
「あんた、愛想ないから」
「………………」
「後輩には優しくしなよ、冨岡先輩」
「………………」
ケラケラと笑う琴音。義勇は少し不貞腐れている。
少しの間、屋根の上でのんびりとする。本当は二人きりになりたい…とも思ったが、最近は二人になるとどうしていいかわからなくなるときがある。
だから、今はこのまま……
琴音と義勇はお互い似たようなことを考えながら、鴉が指令を伝えに来るまで同じ時を過ごした。