第12章 年下の男の子
琴音の話を聞いていた善逸が、すっと立ち上がった。
「ありがとう、琴音ちゃん」
「元気でた?」
「うん。俺、頑張るよ。俺も、爺ちゃん……育手の雷の呼吸、好きなんだ。片足だったけど、すごく強かった。あんな剣士になりたいよ」
「うん!死ぬ気で頑張れ!善逸くん」
三人は気合を入れ、鍛錬を再開した。
それを見て、スッとその場を離れる琴音。また屋根の上に登った。
「家族が殺されたときか」
義勇がぽつりと呟く。
「うん」
「煉獄が」
「そう。お父上の方ね」
「お前が炎にこだわるのは、恩返しか」
「違う」
「?」
「敬愛、だよ。恩返しなんておこがましい。命を助けてもらった恩返しなんて何をどれだけしてもできるものじゃない。私は師範を敬愛してるの。たとえ今、人が変わったようになってしまっていてもね」
琴音は昔を思い出した。
まだ十一歳だった少女は、単身で煉獄家に弟子入りを志願した。
『刀が水色だと?ならば俺のところではない。水の剣士のところへ行け』
『わかっております!でも、私は炎の呼吸で修行がしたいのです。あなたの元で!』
『継子ならもう居る。息子がな』
『継子になんてならなくていい!私に剣を教えてください!』
『しかし……』
『適性が違うのならその何倍も努力します!どうか、どうか、お願いします!!』
『炎は女には不向きだ』
『それも承知の上です。それでも、私はあなたみたいな剣士になりたい』
『血反吐を吐くぞ』
『覚悟ならとうに』
『…………修行についてこられないようなら即破門だからな』
『はいっ!ありがとうございます!!』――…
この刀が赤だったらどんなによかったか
何度そう思っただろう。
やりたいことと己との不適合に、何度泣いただろう。
でも仕方のないことは仕方ない。どんなに嘆いてもどうにもならない。ならば努力で補うしかないのだ。諦めたくないのならば……
彼女が「柱にはならない」と言い続けるのは、この理由も大きかった。水色の刀の炎柱など、どう考えてもあり得ない。それでも、炎一択でここまで強くなった琴音。義勇は琴音の中に、彼女と煉獄家との強い絆を感じた。