第2章 出会い
義勇が部屋を出ようとくるりと背向けた瞬間、その身体に背後からブワッと掛布団が飛んできた。それと同時に琴音が義勇に飛び蹴りをかました。
不意を突かれた義勇だが、咄嗟に反応して右腕で防御しようとする。しかし、布団で視界が塞がれているため庇いきれず、琴音の蹴りを食らい、その衝撃で外れた障子ごと廊下に倒れ込んだ。
ガターン!と大きな音がした。
「夜月!冨岡!」
竹内が這いながら慌てて近寄る。
「何をする」
バサッと布団をはねのけて顔を出した義勇が琴音を睨む。琴音は義勇にのしかかりながら、こちらも相手を睨みつけている。今は結ばれていない彼女の長い髪が、義勇の眼前に垂れ落ちた。
「私は辞めない」
「…………」
「絶対辞めないから」
「…………」
琴音は義勇の胸ぐらをギリッと掴む。義勇はその手を離させようと、力を込めて琴音のちいさな手を掴んだ。
「こらっ!やめろって!喧嘩すんな!ご法度だぞ!」
竹内も仲裁に入ろうと手を伸ばす。
しかし彼が琴音に触れる前に、彼女は義勇にたやすく引き剥がされて部屋の中に投げ飛ばされた。
「……ぐぅっ!」
「冨岡!やめろ!怪我人だぞ!」
「そんな弱い力で何ができる!」
義勇が布団を取り払い、琴音に殺気を放つ。あまり感情を見せることのない義勇が、珍しく怒りを見せていた。琴音も頭を抑えながら立ち上がり、義勇を睨みつける。
「……家族の仇を討つんだ」
「お前には無理だ。やめておけ」
「馬鹿にしないで!私はもっと強くなる!」
「出来ない」
「うるさい!馬鹿!」
「馬鹿はお前だ」
また琴音が殴りかかりそうになったとき、竹内が間に入る。
「やめろって!お前ら!はい、喧嘩はここまで!!な?」
「竹内……」
「…………」
「あのさ、冨岡。お前の方が年上なんだから、もう少し優しくしてやれよ」
「歳は関係ない」
「あるわ!言い方とか考えろって」
「…………」
「琴音も。いきなり人を蹴るな。お前に口はねえのか。口でちゃんと言えよ」
「だって」
「意外と喧嘩っ早いのな」
「相手によるもん」
竹内の仲裁で、少し落ち着く二人。
だが、苛々はまだなくなっていない。