第11章 那田蜘蛛山
「これならきっと……!いける!」
「……?」
「凄い凄い!きゃはっ!!」
そう言うと、琴音は満面の笑みで義勇を見た。そして、興奮そのままに義勇に勢いよく飛び付いてきた。義勇は驚きつつも、後ろによろけることもなく琴音の体をしっかりと受け止めた。
「――っ!!」
「より強力な血鬼止め、出来るかもしれない!もっともっと沢山の命が救えるかもしれない!嬉しいっ!嬉しいよー!!」
義勇をぎゅうっと抱きしめながら頬を染めて喜ぶ琴音。彼女の腕の締め付けなど義勇にとってはなんてことないはずなのに、不思議と胸が痛いほどに締め付けられた。先程、自分に身を寄せてきたのとは違う。がっつりとした抱擁。
自分から抱きしめたことはあったが、彼女からこうして抱きついてきたことは初めてだった。
動揺、戸惑い、焦り、……そして喜び。
表には出てこないたくさんの感情が心の中を駆け巡った。
義勇は両手をそっと琴音の背中に回し、彼女を抱きしめた。
「よかったな」
それしか言葉が出てこなかった。
それでも琴音は義勇の腕の中で嬉しそうに「うんっ!!」と大きく頷いた。
義勇の眼下で、青い結紐が揺れた。