第11章 那田蜘蛛山
「あの人怖くて、俺苦手」
善逸は口を尖らせる。
「あはは。でもね、アオイちゃんはすっごく優しい子だよ」
「優しいのは琴音ちゃんでしょ」
「そんなことないよ。アオイちゃんの方が絶対に優しい。アオイちゃんが厳しいのは、皆を心配してるからだし、元気になってもらうためにいつも一生懸命なんだよ」
腕の圧迫止血を終えた琴音は、善逸の腕に絆創膏を貼ってやる。
「手、グーパーしてみて」「ちょっと脚見せてね」「吐き気やだるさの具合を教えて」
いくつか問診をして、琴音も研究室へと向かう。
私のは優しさじゃない……
琴音は思った。
少し落ち込みながら、善逸の治療をまとめたファイルを取り出す。今日の日付が書かれた頁に、検査結果の詳細を書き記していく敦子。
そこへ、一つの気配がした。
「甘やかし過ぎだ」
「冨岡。見てたの?」
「あいつらだってもう十五、六だろう。小さい子どもじゃない」
「いくつになっても怖いものは怖いでしょ」
「だとしてもだ」
「善逸くんたちは弟みたいで可愛いの。つい世話焼いちゃうね」
琴音は作業の手を止めずに、義勇の言葉に返事をしていく。
あの夜以来二人が交わすまともな会話となる。しかし、だいぶ日が経っているからか、どちらもいつも通りだ。