第11章 那田蜘蛛山
義勇としのぶを気にしながらも、男の子を追いかけて走る琴音。視界の端に彼らの気配を捉えて視線を送ると、ドシャアという音と共に男の子がすっ転んだ。
「カ、カナヲちゃんっ!」
カナヲが男の子を踏んづけたまま、迷いなく女の子に刀を振るう。
男の子がカナヲの羽織を引っ張ってギリギリで鬼殺を阻止すると、「逃げろ!禰豆子!逃げろ!!」と叫んだ。男の子は再びカナヲに踏まれて、女の子は逃げていく。
……うわぁ、カナヲちゃん、相変わらず容赦ないな。人間相手なのに……
カナヲは女の子を追いかけていった。
琴音は気を失った男の子に駆け寄る。
「ねえ、君!大丈夫?!生きてる?おーい!」
「……う、うぅ…禰豆子……」
男の子に意識はないが、それでも先程の女の子の身を案じている。
琴音も逃亡していった禰豆子と呼ばれた鬼が気になっていた。不思議な気配をまとった、あの鬼。悪い感じはなかった。
そして、何故か義勇が守ろうとしていた。
しかし、鬼だ。
鬼は討伐せねばならない。
……カナヲちゃんが殺してないといいけど
琴音はそう思いながら男の子の治療をしていく。
そこへ、鴉の大きな声が全体に指令を伝えた。
「伝令!伝令!カァァァ!!」
今まさに毒針を義勇に刺そうとしていたしのぶの足もピタリと止まる。
「炭治郎、禰豆子、両名ヲ拘束!本部ヘ連レ帰ルベシ!!」
「!!」
「炭治郎額ニ傷アリ!竹ヲ噛ンダ鬼禰豆子!本部ヘ連レ帰レ!!」
伝令を聞いて、琴音は目の前の男の子を見つめる。
「君が、炭治郎くん……かな?」
聞いたことのない名前だ。この子も新人なのだろう。
「よく頑張ったねぇ。よしよし。生きてて偉いよ」
治療をしながら、意識のない炭治郎に優しく寄り添う琴音。拘束しに来た隠に、怪我に響かないよう縛るように伝えて、その間ずっと頭を撫でていた。
そんな彼女の姿を義勇は少し遠くから見つめていた。
「冨岡さん、会議でじっくり聞かせてもらいますからね」
「…………」
「きちんと説明してください。そんなだから皆に嫌われるんですよ」
「俺は嫌われていない」
「琴音にも嫌われますよ」
「嫌われ…ない」
「おや、少し自信がないようですね」
「……………」
義勇は黙ったままぷいっと向きを変えて歩いていった。