第22章 呪い合い、殺し合い、
その後、虎杖と高羽が来栖の指示で伏黒が着られそうな服を探しに出て行き、残った女子2人はとりあえず脱がせても問題ない伏黒の制服の上着と先程使ったタオルを洗っていた。
紺色で分かりにくかったが、水を含ませて軽く揉み洗いしただけで血の混じった褐色の水が流れてくる。
それだけ大怪我だったということを再認識させられ、なずなは涙が出そうになるのを懸命に堪えた。
洗う音だけが響く中、なずながぽつりと口を開く。
「……あの、さっきは失礼な態度を取ってすみませんでした」
「いきなりどうしたんです?」
来栖は頭を下げたなずなに目を丸くし、洗濯の手を止める。
「あの時のこと、もう一度よく考えてみたんです。私達を殺すつもりだったのなら不意打ちが一番効果的だったはず。でも来栖さんは姿を見せて声を掛けてくれました。善意で手を差し伸べてもらったのに私は疑いばかり向けていて……」
「別に。むしろそれが正しい反応だと思いますけど、実際この死滅回游は殺し合いなんですし」
来栖は肩をすくめて洗濯を再開した。
「私達、あらゆる術式を消滅させるという天使を探しているんです。あなたはその術式を持つ天使ですか?」
なずなの質問に一瞬手が止まる来栖。
「……それは恵が目を覚ました時にでも。何度も説明するのは手間ですからね。今は『はい』とだけ言っておきましょうか」
来栖が伏黒のことを名前で呼んだことにチリリとなずなの胸が痛んだ。
以前にも感じたことのある胸の痛み。
あの時は野薔薇ちゃんから指摘されてもそんなはずないって信じられなかったけれど、今なら分かる。
……私今、恵くんを取らないでって思ってる。
恵くんとお付き合いしてるのは私なのにって。
でも、来栖さんは来栖さんで10年間も恵くんを想い続ける理由があるはずで……
聞いてしまうことに怖さみたいなものはあったが、思い切って尋ねてみる。
「……どうして恵くんを10年探していたのか聞いてもいいですか?」
「助けてもらったんです。まだ私が呪霊が何かというのも知らなかった頃に」
来栖は手を止めないものの、過去を懐かしむように目を細めて話し始めた。