第6章 真昼の逃避行
不良といえど、さすがに歩道橋から飛び降りるなんてできないだろう。
必ず歩道橋を下りるときにこちらに背を向けるはず。うまくいけばその隙に自分達を見失わせることがてきる。
げっそりする野薔薇をよそに、彼らが歩道橋を渡り終えるまでに撒けそうと踏んだなずなはまた2人の手を取って走り出した。
今度はそんなにスピードは出さず、ビルの間の狭い道を縫うように進んでいく。
いくつか曲がって、ようやく人通りの多い通りに出た。
「……えっと、撒いたかな?」
後ろから追ってくる気配はない。
危険はなさそうなので、とりあえず2人の手を離す。
「ありがとうございました。本当に困ってて……」
助けた女性は感謝しきりといった様子で頭を下げる。
「あんな所で何してたのよ?」
「友人と待ち合わせしてたんですけど、無理矢理あそこまで連れてこられちゃって」
最初は友人と待ち合わせしていた駅で声をかけられ、あまりのしつこさに無視できず、なし崩しにあの場所まで行ってしまったらしい。
「待ち合わせ場所、変えた方がいいんじゃない?」
「はい、それは今から連絡します」
女性が連絡を取っている間、なぜかなずなは気まずそうにモジモジしていた。
「友人と連絡が取れたので、私はこれで。本当にありがとうございました」
しかし、これにて一件落着とはいかず……
女性がお礼を言い終わらない内になずながすみませんと勢いよく頭を下げた。
「あ、あの、ここがどこだか分かりますか……?」
「え、どこ走ってるか分からずに逃げてきたの!?」
「あの人達から逃げるのに必死で……」
彼らを撒くにはどうすればいいかということしか頭になかったのだ。
いや、たとえやみくもじゃなかったとしても普段の方向音痴ぶりを考えると迷っていた可能性が大きい。
バツが悪そうに目を泳がせるなずなに女性は笑いかける。
「大丈夫ですよ。この大通りをまっすぐ行くと駅に着きますから」
「ありがとうございます……!」
なんなら一緒に行きましょうか?という女性の厚意に甘え、2人は無事帰途に就いたのだった。