第6章 真昼の逃避行
カフェを出て駅に向かっている途中、ゲラゲラと笑い声が聞こえ、思わず2人はそちらに目を向けた。
野薔薇は小さく舌打ちしている。
せっかくなずなとしゃべり通してスッキリしたというのに。
「あの……や、やめてください……」
「そんなに嫌がらないでよ〜」
よく見ると複数の男性に囲まれた女性が見える。
不良に絡まれているようだ。
「ちょうどいい、アイツらボコるわよ」
悪事を働いているのだ。憂さ晴らしにはおあつらえ向き。
狙いを定める野薔薇をなずなが慌てて止める。
「えっ、あ、危ないよ!やめとこう?」
相手は一般人のようだが、男性だ。人数も4人と向こうの方が多い。大声を出すとか警察を呼ぶとか、もっと安全な方法もあるのに。
「ちょっとアンタ達!」
なずなが逡巡するのをよそに野薔薇は男達に声をかけてしまう。
「の、野薔薇ちゃん!」
「なに、オレらと遊んでくれんの?」
「寄ってたかって女泣かすなんて良い度胸じゃない。歯ァ食いしばりなさい!」
「ああ?」
野薔薇が喧嘩腰なので、不良達も息巻いている。
あぁ、どうしよう……
私も応戦する?
でも、一般の人をぶったり蹴ったりしてはダメ、絶対ダメ。
柔道の要領で転ばせる?
アスファルトやコンクリートの上じゃ怪我をさせてしまう。
警察を呼ぶ?
たぶん間に合わない。
残る手段は……
「野薔薇ちゃん、逃げよう……!」
「は?何言って、ちょっとなずな!?」
野薔薇と不良に絡まれていた女性の手を無理矢理掴んで、なずなは走り出した。
背後へ向けて声掛けも忘れない。
「追いかけてこないでくださーいっ!」
あっという間の出来事に不良達は一呼吸反応が遅れる。
それでも相手は女3人。少し距離があってもすぐ追いつける。そうタカを括って追いかけ始めたが。