第22章 呪い合い、殺し合い、
―嘘つき。無罪になるって言ったじゃないか!!―
かつて日車が弁護した19歳の少年に言われた言葉だ。
飲酒運転をして人を撥ね、危険運転致傷の有罪判決を受けたその少年。
面会を重ねていくと、飲酒も運転も職場の上司や同僚から強要されたものだと分かった。
執行猶予を取れるよう奔走したが、結局関係者に口裏を合わせられて示談金も用意できず、執行猶予も取れずに終わってしまった。
判決後、面会室のパネルを叩き、泣きながら日車を責める少年にかける言葉が見つからなかった。
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「なんとか執行猶予つくようにするって言っただけで、無罪になるなんて言ってないのにねぇ。これで懲りたでしょ、もう無理筋の刑事弁護なんてやめなよ」
刑が確定した後、公園のベンチで項垂れていたら、当時勤めていた弁護士事務所の上司である高木からそう釘を刺された。
「弱者救済なんて……そりゃ立派だけどさ、裁判所とか検察の理解もなしに弁護士だけじゃ限界があるでしょ。依頼人に逆恨みされてまで続けることないよ」
「彼らは経済的にも精神的にも追い詰められています。私に当たるのも無理はない」
「君の精神(こころ)はどうなるのさ、日車君」
「……私は、弱者救済など掲げてはいません。昔から自分がおかしいと感じたことを放っておけない性分でした。それが治ってないだけです」
司法の世界に入ると、特に刑事裁判の分野はおかしいことばかりで、しかもそれがまかり通っている現実があった。
司法の世界にいる者なら一度は目にしたことのあるだろう女神像を思い起こす。
テミス、右手に剣を左手に天秤を持つ正義の女神。
司法と裁判の公正さを表す象徴。
目隠しをした彼女は前に立つ者の顔を見ない。
それは貧富や権力の有無に左右されず、法は全ての人間に等しく適用されるという法の下の平等を示しているという。
だが……
「正義の女神は法の下の平等のために目を塞ぎ、人々は保身のためならあらゆることに目を瞑る。そんな中、縋りついてきた手を振り払わないように……」
「私だけは目を開けていたい」