第22章 呪い合い、殺し合い、
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―日本の刑事裁判の有罪率は99.9%―
この日、日車はある事件の容疑者と面会していた。
そばかすのある気弱そうな青年は俯いたまま、一言呟いた。
「猫を飼っていたんです」
「……続けて」
「急に警察の人が話しかけてきて、2人、3人って増えて……このまま捕まっちゃったら猫が死んじゃうって……飼っちゃダメな決まりだったから、飼ってるのは俺しか知らないから」
岩手県盛岡市で2016年3月、女児とその母親計2人の刺殺体が自宅で見つかった事件。
盛岡地検は近くに住んでいた彼、大江圭太を2人に対する強盗殺人の容疑で起訴した。
逮捕までの経緯はこうだ。
大江は巡回中の警官からの職務質問中に逃亡し、自宅に駆け込んだ所、追いかけてきた警官が血のついた刃物を発見。
現行犯逮捕となった。
後のDNA鑑定で刃物の血痕と被害者のDNAが一致している。
だが大江は一貫して犯行を否認。
証拠となった刃物に関しても
「拾ったんです。俺のじゃない」
涙を流しながら、そう証言した。
「それは無理があるでしょ〜」
事務所に戻ると、助手の清水からの第一声がそれだった。
「だって後ろめたかったから職質拒否したんですよね?」
「いや、彼は昔知人が薬物を使用していたことが原因で不当な聴取を受けたことがある」
「それがトラウマってことですか?だとしても拾ったって……血のついた包丁を?なんで?」
「後で警察に届けるつもりだったそうだ」
「後でって!」
「分かってる。言い分全てに無理がある。しかし大江の環境……住み込みで働いているNPO法人のことを考慮すると、あり得ない話じゃないと思えてくる」
「NPO法人?」
「行き場のない高齢者に対するシェルター運営や自立支援が主な活動だ。大江はそこで仕事として彼らの世話をしていた」