第1章 妖刀事件
このままでは伏黒が殺されてしまう。
父の剣術は昔から近くでよく見てきた。
父の剣は一撃必殺。
急所を的確に押さえ、迷いなく打ち込む。
伏黒が呼び出した羽の生えた蛙は容易く斬られ、消えてしまった。
今度は彼の首を刎ねるつもりだ。
そう思ったら、身体が勝手に動いていた。
伏黒に体当たりし、背中に手を回して服を引っ張り、さらに足払いして引き倒す。
鬼切の一閃が伏黒の鼻先を掠めた。
間一髪、初撃はかわせた。
でも次は?
自分は稽古の時ですら、父から一本も取れたことはない。
それでも、呆然として動けなかった自分の手を引いて、守ってくれた伏黒を死なせたくなかった。
「お父さん!お願いだからもうやめてっ!!」
もう自分の身体を盾にすることしか、思いつかなかった。
背中から肉を切り裂く音がした。
父に斬られた。
ぬるりと温かいものが背中を流れる感触がする。
ああ、私、死んじゃうのかな……