第1章 妖刀事件
伏黒は一部始終を愕然と見ていた。
目の前のなずなの背中は血で真っ赤に染まっている。
だが、なずなは斬られていなかった。
比呂彦の胸からなずなの背中に血が流れ落ちているのだ。
比呂彦がなずなを斬ろうとしたとき、鬼切があり得ない軌道で比呂彦の心臓をひと突きした。
確かに比呂彦の右手に握られているのに、鬼切はさらに比呂彦の身体を斬りつける。
ウオォォォォアアアーー
身体中から血を流し、人とは思えない断末魔を上げながら、比呂彦は膝をつき、ゆっくりと倒れた。
「なんとか間に合ったかな」
不意に伏黒の隣に五条が現れる。
「五条先生、どこ行ってたんですか!?」
伏黒が起き上がると気を失ったなずなががくりと崩れ落ちた。
「比呂彦を追ってたんだけど、鬼切の呪力に引き寄せられた呪霊を祓ってたら、時間かかっちゃって……でも、大丈夫だったみたいだね」
五条は事切れた比呂彦の手から鬼切を拾い上げる。
「なんで比呂彦さんはいきなり……?」
「それはなずなが起きてから説明するよ」