第1章 妖刀事件
なんだ、あの刀……?
あれが渡辺家に伝わる呪具なのか?
あんなに呪力を撒き散らしていたら、呪霊を祓うどころか寄り付いてくるだけだ。
伏黒は怯えるなずなを背後に庇い、比呂彦の間合いに入らないよう、ジリジリと距離をとる。
比呂彦は一級呪術師、まともにやり合っても伏黒に勝ち目はない。
五条が戻るまで持ち堪えるしかない。
どこか虚な眼をした比呂彦は迷いなく2人に襲い掛かってきた。
「不知井底、拘束しろ!」
一足飛びに間合いを詰めた比呂彦に不知井底が舌を伸ばす。
が、翻した一刀ですべて切り落とされてしまう。
ついでとばかりに不知井底の内の1体も切り捨てられる。
圧倒的に強い……!
不知井底がわずかでも足止めしている内に逃げるしかない。
伏黒がなずなの手を掴み、踵を返そうとしたとき、ドンと胸に衝撃を受けた。
その衝撃とほぼ同時に後ろに引っ張られ、足を掬われる。
次の瞬間、目前に一閃が走った。
比呂彦が伏黒の首を狙ったのだ。
「お父さん!お願いだからもうやめてっ!!」
なずなは倒れた伏黒に覆い被さり、守るようにぎゅっと手を回した。
伏黒はなずなの肩越しに比呂彦が狙いを定めて鬼切を構えるのを見た。
このままでは間違いなくなずなが斬られる。
「や、やめっ……!」