第6章 真昼の逃避行
医務室に向かいながら、野薔薇は先程の真希と真依のやり取りを思い出していた。
「ねぇ、真希さん、さっきの本当なの?呪力がないって」
「本当だよ。だからこの眼鏡がないと呪いも見えない」
呪術界の御三家、禪院家に生まれながら、真希は生まれつき呪いが見えなかった。
そのせいで家ではひどく軽蔑された。
「私が使うのは呪具。初めから呪いが篭ってるもんだ。オマエらみたいに自分の呪力を流してどうこうしてるわけじゃねぇよ」
「じゃあなんで呪術師なんか……」
野薔薇の質問に笑みをこぼす。
だからこそだ。
だからこそ、呪術師になって禪院家を見返してやりたくなったのだ。
「嫌がらせだよ。見下されてた私が大物術師になってみろ。家の連中、どんな面すっかな?楽しみだ」
不敵に笑う真希は真っ直ぐで強くて、眩しかった。
「ほら、さっさと硝子さんのトコ行くぞ」
足早に歩き出す真希に野薔薇は走り寄る。
「私は真希さんのこと、尊敬してますよ!」
「あっそ」
真希と野薔薇が医務室に到着すると、まず目に入ったのは、頭から流血している伏黒だった。
「げ、伏黒ボロボロじゃん。なに負けてんのよ」
「……オマエもな」
伏黒ほどではないが、野薔薇もジャージのあちこちに穴が空き、顔にも殴られたような跡がある。
お互い様と言ったつもりだったのだが、野薔薇は別の意味に取ったようで不服だと言わんばかりに顔をしかめた。
「私は別に負けてないわよ!」
真依を落としかけるところまではいったのだ。東堂が来なければ確実に勝てた。
2人の口論が始まってしまいそうな気配になずなが声を上げる。
「2人ともボロボロだよ!お願いだから早く治療してもらって!」
自分達はまだまだ弱い。
文字通り痛いほど、それを思い知らされた。