第21章 ネクストステージ
天元は2ヶ月もあれば死滅回游は終わると言っていたが、それでも今まで経験したことのない長期戦になる。
彼女の術式は傷の治癒もそうだが、術式に使う呪力のほとんどが鬼切の呪力なので、本人の呪力消費が少なくて済むのだ。
だから耐久戦や持久戦に向いている。
伏黒から見てもそう理解できる。
だが……
「いくら術式が向いてるっつっても、オマエの性格が向いてねぇだろ。回游に参加すれば辛い思いをさせる……!」
一応、回游で人を殺さなくても済むようにする策は考えている。
……考えてはいるが、それには最低でも1回のルール追加が必要だ。
また彼女に殺しを強要する事態にならないとは限らない。
伏黒の脳裏によぎるのは冷たい雨に濡れ、虚ろな目をして線路に飛び込もうとした姿。
……もう、あんな思いはさせたくない。
「心配してくれてありがとう……でも私は残される方がずっと辛いよ。伏黒くんや皆が危険な場所に行くのに、私だけ外で待ってるなんてできない。……も、もちろん外でやらなきゃいけないことがあるのも分かってるよ。でもそれは私向きじゃない」
死滅回游の結界外で行うべきこと、それぞれの結界に入った術師との情報共有や外にいる呪霊祓除、そして姿をくらませた羂索への対策、それらも決して蔑ろにはできない事柄だが、各所に移動を伴うためなずなの方向音痴は足を引っ張る。
「八十八橋の時もそうだったけど、もし伏黒くん1人で回游に参加しても、私は追いかけるから。……伏黒くんも同じ立場というか、私が勝手に行っちゃったら、追いかけてくれるでしょ?それと同じだよ」
握りしめていた伏黒の拳をなずなが両手で包み込み、自然と力が抜けた。
「悪い、渡辺……」
「謝らなくていいんだよ。私の方が協力させてほしいってお願いしてるんだから」
柔らかなその笑顔を見て伏黒の胸に支えていた澱みが解かされていく。
なずなの手を伏黒の手が包み込む。
「死滅回游平定に力を貸してほしい」
「うん……!」
2人きりのささやかな時間。
時計の針は22時を指そうとしていた。