第21章 ネクストステージ
「え、えーっと……その……」
伏黒の隣に座るなずなは返答に詰まり、忙しく目が泳いでいる。
反対隣にいる虎杖も心配してかチラチラとなずなを見ていた。
適当に話を作って助け舟を出すべきかと伏黒が口を開こうとしたその時、
「わ、ワンちゃんです!」
ワンちゃん……
そこは犬と言うべきじゃ……と思ったら案の定なずな自身も顔を真っ赤にしている。
そして更に彼女の試練は続いてしまう。
「犬かぁ、いいよねぇ。犬種は?」
「け、犬種!?えっと、黒くて……大きくて、ちょっと狼みたいな……」
職業柄なのか単に犬好きなのか質問は続き、なずなはあたふたするばかり。
今度は伏黒が間に入った。
「ミックスです」
彼女が思い浮かべている犬がどのようなものなのか、多分玉犬だろうと見当をつけ、かつ当たり障りのない答えを選ぶ。
これならもし違っていても問題ない。
ここで終わればよかったのだが、次に飛んできたのは極めつけの質問だった。
「名前は何ていうの?」
「へっ!?……ぁ、と、名前……」
警官もこちらの緊張を解そうと話しかけてくれているのだろうが、もうやめてくれと言いたくなる。
ダラダラと冷や汗を流し、気まずそうに口をモゴモゴさせているなずなが不憫だ。
ここで伏黒が答えると不自然に思われるかもしれないが、これ以上彼女に負担をかけるのは我慢できない。
安直に「クロ」とかその辺りの名前を言うかと口を開きかけたが、その前にこれまた予想外の名前がなずなの口から飛び出した。
「た、たまちゃんです!!」
“玉”犬だからか!?
もっと何かあっただろというツッコミを飲み込み、虎杖の方を見ると窓側を向いて肩を震わせながら必死に笑いを堪えていた。
前の座席を見ると、警官は目を丸くしている。
そしてしみじみとこう言った。
「……変わった名前なんだねぇ」