第1章 妖刀事件
「……あの、さっきは飛び出してしまって、ごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございました。……名前、聞いてもいいですか?」
なずなはひとしきり泣いてやっと落ち着く。
「伏黒 恵だ。……別に敬語じゃなくていいぞ。同い年だし」
「今祓った中に、ここを襲った呪霊はいたか?」
伏黒の質問になずなは首を横に振る。
母や兄弟を殺したモノ。
凶器ばかりに目をとられていたが、あれは、呪霊なんかじゃなかった。
あれは、間違いなく……
「……お父、さん……」
ぽつりと呟かれた言葉が何を意図しているのか分からず、伏黒は眉を寄せる。
「……お父さんが、やったの」
「え……?」
なずなの父親が、なずなの母親と兄弟を殺したのか……?
次の瞬間、玉犬が鋭く吠えた。
吠えた先を見ると、1人の男が立っている。
なずなが全身を震わせ、大きく目を見張った。
「お父さん……っ!」
なずなの父・比呂彦の右手には禍々しい呪力を発する刀が握られていた。