第6章 真昼の逃避行
訓練初日は3人ともボロボロだった。
野薔薇はパンダに投げまくられ、全身痛いし、叫んでいたので喉も痛い。なずなはキャシィとの格闘でグラウンドを転げ回って砂ぼこりまみれ。
遅れて参加した伏黒も真希に棍で打たれ、蹴飛ばされしてあちこちに打撲ができていた。
それでも、もう我慢ならないと野薔薇はジャージを買いに出かけた。
結局一本も取れなかったが、伏黒は早めに解決しておきたい問題を先輩達に相談してみることにした。
「呪具の持ち運びかぁ……」
「得物で近接を補うのは賛成ですけど、術式上、両手はパッと空けられるようにしたいんです」
「じゃあ、刀は?」
なずなが鬼切を少し持ち上げて控えめにアピールする。
「鞘に納めるロスが気になる」
「そっか……」
真希もなずなも線引きとしては同じ呪具使いという括りだが、なずなは術式の都合上、常に鬼切を持っている方が良い。伏黒とは真逆だ。
「禪院先輩は2つ以上持ち歩くこともザラですよね?どうしてるんですか?」
「パンダに持たせてる」
フンとポージングをキメるパンダに伏黒はまたしても聞かなきゃよかったとため息を吐いた。
「物を出し入れできる呪霊を飼ってる術師とかもいるよな」
「それは無理だろ、レアだし。飼い慣らすのに時間もかかる。見つけたら私に教えろよ?」
「カルパス1年分」
軽口を叩く先輩達をよそに伏黒は少年院で宿儺に言われたことを反芻していた。
特級を目の前にしてなぜ逃げたのか?
宝の持ち腐れとも言っていた。
あれは、俺には特級に勝てる可能性があったということなのか?
考えながら、自分の影に手を触れる。
と、階段の感触はなく、指が影に沈んだ。
「ツナツナ」
「それ、どうなってるの?」
狗巻が伏黒の方を指差し、なずなも目を丸くしている。
「なんだよ?」
「……先輩、なんとかなりそうです」