第6章 真昼の逃避行
「遅いぞ、恵」
野薔薇もなずなも休憩を終え、訓練を再開した頃、伏黒がグラウンドに戻ってきた。
任務報告とは言ったが、実際は少年院の前で泣き崩れていた岡崎 正の母親の元へ行っていた。
特級呪霊から逃げる際に破り取った名札を届けていたのだ。
虎杖が遺体を最後まで持ち帰ろうとしていたことも伝えた。
息子が死んでも悲しむのは自分だけ、と泣き崩れていた姿が思い出される。
「禪院先輩は、呪術師としてどんな人達を助けたいですか?」
せめて自分が知っている人間には正しく死んでほしい、呪いによる間違った死から救いたいと言った虎杖の考えを、自分は受け入れられなかった。
”知っている”の範疇に今回の岡崎 正のような顔も見たことのない、話に聞いただけという人間も含まれていたから。
だから先輩達はどうなのか知りたかったが、真希から返ってきたのは、ある意味非情なものだった。
「は?別に私のお陰で誰が助かろうが知ったこっちゃねぇよ」
「聞かなきゃよかった……」
ため息を漏らす伏黒を真希はギロリと睨んだ。
それを聞いていた野薔薇が抗議の声を上げる。
「伏黒ぉ!面接対策みたいな質疑応答してんじゃないわよ!交代、もう学ランはしんどい!かわいいジャージを買いに行かせろー!!」
ハンマー投げのようにパンダにグルグル振り回され、投げ飛ばされる野薔薇。
挙げ句の果てにはグラウンドにグシャッと沈んだ。
「……あの2人は何してるんですか?」
「受け身の練習。オマエら近接弱っちいからな」
伏黒の質問にグッと親指を立てて答えるパンダ。
グラウンドの端に目を向けると、緑色の物体と格闘しているなずなが見える。
……渡辺も出てきたのか。
よかった、とりあえず一歩は踏み出せたようだ。
少し安堵した伏黒の頭を真希が棍で小突いた。
「よそ見するなよ、恵。まずは私達から一本取れ。話はそれからだ」