第21章 ネクストステージ
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同じ頃、禪院家の広い屋敷の廊下を着物姿の人間が2人歩いていた。
「で、真依ちゃんは死んだん?」
前を歩くのは金髪でピアスをした鋭い眼の男性、禪院直哉。
直毘人の末の息子だ。
「今は当主の心配を。それに死にかけているのは真希です」
直哉の後ろを歩く女性がそう答える。
彼女は直毘人の弟である禪院扇(おうぎ)の妻、真希と真依の母親だ。
実の娘が危ないというのにその声には心配の色はない。
「そんなん?ほなええわ。べっぴんさんやけど、真希ちゃんはアカン。アレは男を立てられへん。3歩後ろを歩かれへん女は背中刺されて死んだらええ」
「……」
直哉を通すため、戸を開けた彼女は黙ったまま。
「その点、真依ちゃんは立派さね。真希ちゃんと同じ顔、同じ乳、強がっとるけど、自分が女やと心底理解しとる」
直哉が入った部屋には既に2人いた。
「遅いぞ」
刀を差した細身の男、禪院扇が咎める。
「何をしていた?実の父親が峠を彷徨っている時に……!」
もう1人、直哉のいとこにあたる禪院甚壱(じんいち)は額に大きな十字傷がある筋骨隆々とした無精髭の男だ。
彼も顎に手を当て、咎めるように無言で直哉を睨んでいる。
「ごめんちゃい。でも別にええやろ、俺が来ても来やんでも」
2人に睨まれても直哉は気にも留めないどころかおどけて見せる。
「次の禪院家当主は俺なんやから」
3人がここに集められたのは禪院家26代当主である直毘人の危篤の報が入ったからだ。
直毘人が死亡すれば、彼の遺言に従い速やかに次の当主が発表されることになっている。
そして、その当主は既に決まっていると言っても過言ではなかった。