第6章 真昼の逃避行
顔のすぐ横を緑色の残像が掠める。
なずなは学長特製の呪骸・キャシィと格闘していた。
河童のような見た目からは想像できないほど速いし、一撃が重い。
なんとか避けられているが、まともに食らったら吹っ飛ぶどころか、骨を折られかねない。
なのにこっちはキャシィを全然捕まえられないでいる。
訓練用の木刀は早々に手放してしまった。
使っても当たらないし、たとえ叩けてもキャシィは止まらないからだ。
痛覚がないというのはなかなかやり難い。
機動性も膂力もキャシィが上だ。
さすがに体重は自分の方が重いだろうが、あの膂力を受け止めきれるほどではない。
どうする?
どうしたらいい?
考える間もなく、右ストレートが飛んでくる。
つ、強い……!
「なずな、改めて見るとすごいわね。何分続けてんのよ?」
「ざっと20分くらいか。あの動きをし続けるのはけっこうしんどいはずなんだがな」
あまり息の上がっていない様子に大したもんだとパンダは感心する。
ちなみにパンダと狗巻、野薔薇は休憩中。
キャシィも30分ごとに止まるよう術式をかけてもらっているので、なずなももうすぐ休憩だ。
「キャシィ、速すぎだよ……」
結局一度も捉えられず、一方的な攻撃を避け続けて30分経過してしまった。
キャシィはただの河童のぬいぐるみに戻っている。
これが動き出した途端に人を馬鹿にしたような表情や仕草をするから不思議だ。
「お疲れさん」
パンダががくりと肩を落としているなずなを労う。
「あんま落ち込むなって、キャシィ相手に初めてであれだけ動けるなら大したもんだぞ」