第21章 ネクストステージ
幸いと言っていいのか複雑なところではあったが、夜蛾以外に特に用は無いようで、術師はあっさりと去っていった。
高専の一室を勝手に拝借した九十九が渋谷での出来事を共有する。
今回の黒幕である夏油は呪力の“最適化”を目論んで非術師を多数巻き込むテロを起こし、五条の封印と魂の形を変える術式を持つ特級呪霊・真人を呪霊操術で取り込んだ。
そこまで話したところで伏黒が手を挙げた。
「そもそもの疑問なんですけど、夏油って去年の百鬼夜行の首謀者ですよね。五条先生が殺したはずの呪詛師が生きてたんですか?」
どんな状況であっても五条が仕損じるとは考えにくい。
その質問に九十九は肩をすくめる。
「ガワが夏油というだけで、中身は別人だよ。中身の術師は少なくとも1000年前の術師だ。どうやら肉体を転々とできる術式らしい。その証拠に史上最悪の術師として名高い加茂憲倫も自分だったと明かした」
加茂 憲倫の頃も呪力の最適化を目指して活動しており、呪胎九相図を作り出したのもその一環だったようだ。
九十九が考えるに、最適化プランには大きな穴がある。
海外では日本に比べて呪術師や呪霊の発生が極端に少ない。
なぜか?
それは天元の結界がないから。
最適化プランにはおそらく天元の結界が必要不可欠なのだ。
天元を利用するということは、呪力が最適化され術師と成るのは、日本国内の人間に限定される。
それは呪力というエネルギーをほぼ日本が独占するということ。
アメリカはもちろん中東諸国が黙っている訳がない。
そして、呪力を用いるのは生身の人間、どんな不幸が生まれるかなんて想像しなくても分かる。
それは九十九が描く理想とはかけ離れた世界なのだ。