第20章 10月31日 渋谷にて
乙骨が呪霊の頭に刀を突き刺し、地面に縫い留める。
「ごめんね、ビックリした?怪我はない?」
喰われそうになっていた少女に笑いかけるが、少女は身体を強張らせたままだ。
ここは商業ビルばかりだし、この辺りの子じゃないのかな。
「誰かと一緒?お父さんとかお母さんとか」
「……分かんない」
少女の足元を見ると、靴も剥き出しになっている膝も汚れており、相当な距離を歩いてきたことが見て取れた。
乙骨は少女を安心させるように屈んで視線を合わせる。
「いっぱい歩いた?」
こくりと黙って頷く少女。
「そっか、頑張ったんだね」
乙骨の背後には先程地面に縫い留めた呪霊が自力で刀を抜き、乙骨を飲み込もうと迫っていた。
が、その姿は一瞬で消え、直後にドチャッと何かが潰れる音。
少女が反射的に音の方を向いたので、乙骨はその視線を遮るように手を翳した。
「見えてるんだっけ」
この先の光景は少女には見せたくない。
「やりすぎは駄目だよ、リカちゃん」
音のした先のビルの壁、そこに叩きつけられてべっとりと付着した呪霊の残骸と血痕に背を向けて、少女と共に歩き出した。