第20章 10月31日 渋谷にて
11月1日 1:27 銀座―
真っ暗なコンビニで小学生の少女が手掴みで弁当を食べていた。
周囲には開封した菓子の袋、ペットボトルのジュースが転がっている。
一通り腹ごなしをした少女が顔を上げると入口に人影がおり、こちらに向かって手を振っていた。
「おいで、オいで、ここは危ない」
ここまでたった1人で歩いてきた少女にとって、自分以外の人がいるという事実は安堵感に直結する。
「あったかいオ風呂、お歌も歌エるよ」
少し言葉がおかしかったが、それが人外であると少女には判断できなかった。
「お母さんは?」
「お母さんもお父さんも、お姉ちゃんもお弟も、先生モッイるよ」
「私に弟はいないよ。あと先生は嫌い」
「私に弟はイナイよ。あと先生はキライ」
言葉をそのまま返され、少女は首を傾げる。
「……?大丈夫?飲む?」
「ちょう、だい」
今度は会話が成立した。
開栓してあったミネラルウォーターを片手にに少女はコンビニの入口へ駆け出す。
外に出た瞬間、人影は人形のようにカクリと後ろに引っ張られ、顔に感じた生臭い空気。
右手を見ると鋭い牙がズラリと並んだ大きな口が目に飛び込んできた。
コンビニの入口より大きい口を持つ巨体。
図鑑で見たことがある。
チョウチンアンコウだ……!
でも提灯の部分には図鑑で見たようなヒラヒラした飾りではなく、人間がぶら下がっている。
あんな大きな口、自分なんて丸呑みにされてしまう。
逃げなくちゃ、と頭では思っていても、怖くて怖くて全然動けなかった。
次の瞬間、ドンと大きな音がして、突然目の前の口が閉じて潰れた。