第20章 10月31日 渋谷にて
夜蛾の呪骸の偵察によると、現れた呪霊はそこまで強くはなく、特級や一級はほぼいないと見て良さそうだった。
ただ、呪霊の数はまだ増え続けており、これからどうなるかは不明。
更に道玄坂付近では戦闘が勃発しているらしい。
呪骸がそれ以上近づけず、この戦闘に関しても詳しくは分からない状況だ。
どう転ぶにせよ、まずは一般人を渋谷から避難させないことにはこちらも満足に動けない。
そう判断した夜蛾は既に公安へ事情の説明と避難誘導の依頼を済ませていた。
その上で呪霊祓除には必ず2人以上であたり、狗巻が一般人を一時避難させている箇所を重点的に行うこと、そこの避難が完了したら次の場所へ、すべての避難が完了したら呪霊の発生源である道玄坂へ向かうことが言い渡された。
伏黒となずなは最初に禪院班が突入した渋谷マークシティに向かっていた。
ここに避難した人々は狗巻の呪言による誘導は受けていなかったが、なずな達が改造人間から守るために一箇所に集め、駅から出られるようになったら渋谷を離れるようにと伝えた人々だ。
一般人には帳は見えない。
帳が上がったこと、つまり駅から出られるようになったことに気づいていない可能性がある。
そのため、避難場所を覚えている伏黒となずなでそれらの人々の安否確認と避難誘導のための警察が到着するまでの呪霊からの護衛を引き受けることになっていた。
走っていると、前方から術師の気配がする。
見知った気配だったので、それほど警戒感はない。
ただ、その呪力の主はここにはいないはずの者で……
2人が顔を見合わせながら、速度を落とさずにいると、思った通り前方に人影が見えてきた。
街灯が消え失せた暗がりでも判別できる白い制服。
やはり間違いない。
「乙骨先輩、なんでここに!?」
「伏黒君……と渡辺さんも、ごめんね、遅くなっちゃって」
そう言って苦笑したのは、長期の海外出張に出ていたはずの乙骨 憂太その人だった。