第20章 10月31日 渋谷にて
10月31日 24:00―
突然妙な呪力が空に走った。
何かの術式だ。
だが、ここまで広範囲に広がる術式など見たこともない。
発動元を探るために残穢を辿ろうとしたその時、道玄坂方面から突如夥しい呪霊の気配が現れる。
「な、何……!?」
何の前触れもなく現れたそれになずなは身を竦ませる。
渋谷にいた大多数は魂の形を変えられた改造人間だったはず。
なぜ今こんな数の呪霊が出てきたのか。
……いや、その前にこれまでどこに潜んでいたのかもまるで見当がつかない。
突然何もない所から現れた、そんな印象だった。
この場にいる全員が一様に驚く中、夜蛾が足早に入ってくる。
「戦える者はすぐに出てくれ」
「学長、何があったんですか?」
伏黒の質問に手短に回答する。
「道玄坂付近に多数の呪霊が湧いた。それと同時に渋谷に降りていた帳はすべて消えたようだ」
つまり、今まで帳内に閉じ込められていた一般人を避難させることが可能になったが、避難の最中を呪霊に狙われる危険がある。
加えて一般人の避難にかかりきりになれば、その間湧いた呪霊は野放し状態だ。
渋谷のみならず東京中に広がってしまえば、この場にいる術師だけではとても手が足りない。全国の術師をかき集めようにもその間に呪霊は少なからず被害を出すだろう。
呪霊による被害が拡大すれば、人々の負の感情も高まり、呪霊を生み出す悪循環にもなってしまう。
呪霊があちこちに散る前に叩くべきだが、一般人も放置できない。
どうする?
こうやって考える時間すら惜しいはずで、すぐに動くべきなのでは?
だが、こんな時でも夜蛾は冷静さを欠いてはいなかった。
「一般人の避難誘導は警察組織に任せる。私達は呪霊の拡大阻止に全力を注ぐぞ」