第20章 10月31日 渋谷にて
「……今の、新田さんだよね、野薔薇ちゃんが1人で行っちゃったって……!」
薄い壁を隔てて新田の声を聞いたなずなが慌てたように起き上がった。
伏黒も眉を寄せて声の方を見ている。
「私、もう傷も治ってるし、探しに行けるよ」
「やめとけ、治ってるっつってもまだ満足に動けねぇだろ。俺も呪力が戻りきってねぇし……行っても何もできない可能性が高い」
なずなを制止した伏黒も野薔薇のことを心配していないわけではない。
むしろ動ける状態なら自分が行きたいだったくらいだが、現状を考えると何もできずに再び負傷する事態になりかねない。
仲間が危機に陥っているかもしれないのに何もできない。
悔しさに歯噛みしていると、治療を終えた新田と目を覚ましたなずなを確認しようと家入が簡易ベッドが並ぶ部屋に入ってきた。
ベッドから起き上がり、伏黒に止められているなずなを見て新田が察する。
「渡辺さん、行っちゃダメっスよ、もちろん伏黒君も。2人とも大変な戦いだったそうじゃないですか。今は休むことが最優先っス」
今の渋谷は文字通りの魔境。
万全の状態とは言えない彼らが出ても、身を危険に晒すだけだ。
新田の言葉に家入も同感する。
「新田の言う通りだぞ」
「でも……」
「確かに釘崎さんのことは心配っス。でも君達のことも同じくらい心配してます。とても渋谷に行かせるなんてできません」
そして、無事を祈ることしかできないなずなを元気づけるように新田はガッツポーズした。
「きっと大丈夫っス。学長も京都の人達にヘルプを出してますし、渋谷駅の方もさっきまでよりはだいぶ静かですし」
―きっと大丈夫―
その淡い期待は、しかしすぐに裏切られることになる。