第20章 10月31日 渋谷にて
救護所内が騒がしくなったのはそれからまもなくのことだった。
「学長、家入さん、なんとかならないっスか?」
「なんとかしたいのは山々だが……」
「俺もここの護衛から動くわけにはいかんし、呪骸も必要最低限以外は音信不通になった術師の捜索と帳の監視に出している」
救急隊に運ばれてきた新田が自分の怪我もそこそこに真っ先に訴えたのは、単独で渋谷駅のB5Fに向かってしまった野薔薇の救援だった。
しかし夜蛾の言う通り、ここにはすぐ救援に向かえる術師がおらず、呪骸も残っていなかった。
呪骸が捜索しているのは七海をはじめ、冥冥、日下部、パンダ、狗巻、虎杖。
五条も封印された今、当初渋谷に入った術師のほとんどが音信不通になっている。
もちろん夜蛾とて何も手を打っていない訳ではない。
「既に京都にも動員を要請している。こちらに向かっているはずだ。到着すれば多少は呪骸の手も空く」
それまで辛抱してくれと言われてしまえば、新田も待てないとは言えず、一刻も早い到着を祈るしかなかった。
歯がゆい思いで家入の治療を受けながら、新田は自分達のこれまでの行動を話した。
「私達、電話が繋がらなくなった伊地知さんの安否確認をしようと禪院さん達から離れたところを呪詛師に襲われたんです」
「そこを七海さんに助けられて、七海さんが呼んだ救急隊を待ってたんス。釘崎さんも怪我してたんですが、救急隊員が着くなり1人で渋谷駅に向かってしまって……」
七海から一級術師で最低レベルだと忠告されていたにもかかわらずだ。
―アイツらが戦ってるのに、1人だけ帰るなんて私にはできない―
そう言って野薔薇は行ってしまった。
止めきれなかったことが悔やまれる。
釘崎さん、どうかご無事で……!