第20章 10月31日 渋谷にて
咄嗟のことでなずなは何が起こったのか分からなかった。
伏黒の顔がこれまでにないくらい近づいて、一瞬だけ口に柔らかい感触が。
その後すぐにコツンと額を合わせて、昨夜勢い任せにして逃げてしまった告白の返事をしてくれた。
少し照れたような表情の深い紺青の瞳に吸い込まれそうで目が離せない。
少し間を置き、やっと現状を理解した途端に火が出るかと思うほどの熱が顔に集まり、心拍数が跳ね上がる。
「あ、あああの……!その、えっと……!!」
茹で蛸のような顔でしどろもどろになる様子に苦笑を漏らし、伏黒はなずなをゆっくりとベッドに寝かせる。
「傷はもう大丈夫みたいだけど、無理せずに休めよ?」
「ぅ、うん、ありがとう……」
しかし返答に反して、なずなの目は天井を向いたり、壁を見たりと落ち着かない。
手もモジモジと捏ねていて休むどころではないというのが見て取れた。
「俺が近くにいると休めないか?」
「ち、違うの……!その、嬉しくて、どうしていいか分からなくて……」
「1人になった方が落ち着けるか?だったら俺は別の場所に移るけど……」
席を立とうとした伏黒の制服の裾を思わず掴み、蚊の鳴くような声で希望を伝える。
「ぁの、い、いてほしい……です」
「……分かった」
再び座って裾をわずかに掴んでいた手を取ると、なずなははにかんで伏黒の手を控えめに握り返した。