第20章 10月31日 渋谷にて
ぐらりと傾いだなずなを思わず抱き留め、泣き続ける彼女の涙を拭い、謝って……
伝えるなら今しかない、と伏黒は言葉を紡ぐ。
「昨日、返事できなくて悪かった……」
「!?……その、ま、まだ私、心の準備ができてなくって……!」
「そんなことねぇだろ」
途端に真っ赤になったなずなに伏黒も力が抜ける。
心の準備なんて、昨日の時点でできてるだろ。
あれほど勇気を出しての言葉だったのだから。
「俺は、自分が善人だなんて思ってない。呪術師だし、正直いつ死ぬかも分からない……けど、」
そんな俺のことを「好きだ」と。
自ら告白するようなタイプではないのに、伝えてくれた。
彼女は怖がりだから、今の関係を極力壊さないように周りに合わせる平和主義者。
呪霊相手の時も迷わないけど、怖がっていたのを知ってる。
それに信じられないくらいの方向音痴。気づくと迷子になっている。
正直、危なっかしくて目が離せなかった。
でも、そうして見ている中で気づいた。
誰かを守る時は違う。
どんなに強い相手でも、どれだけ自分が傷付こうとも、自分の持てるすべてを使って守り通そうとする。
昨夜、俺に何度も命を救われたと言っていたが、俺もそんなオマエに命を救われたことがある。
1度目は呪われた彼女の父親に斬られそうになった時、
2度目は梔子駅で呪詛師の呪術にかかってしまった時、
3度目は交流会に特級呪霊が乱入した時、
任務や学校生活を共にする内、いつの間にか目が離せないのは別の意味に変わっていて―……
そして昨日彼女の告白を受けて思い浮かんだのはただひとつ。
「オマエの想いに応えたい」
頬を真っ赤に染めるなずなの小さな唇に己の唇を合わせる。
ひどく柔らかく、蕩けてしまいそうな感触に引き込まれそうになるが、彼女を驚かせてしまうので、すぐに離れる。
そして、軽く額を合わせて真っ直ぐ目を見て伝えた。
「俺もオマエのことが好きだ」