第20章 10月31日 渋谷にて
とめどなく流れる涙を長くきれいな指が拭ってくれるものの、なずなは涙を止めることができなかった。
それを見かねたのか、伏黒が困ったように少し眉を寄せ、静かに口を開いた。
「謝るのは俺の方だ。渡辺があの呪詛師に殺されるのが嫌で、オマエにこんな怪我させた……本当に悪かった」
「そんなこといいの、伏黒くんが生きててくれたんだから」
なずなはゆっくりと首を横に振って答える。
生きていてくれたことが何より嬉しい。
それに今回の怪我は自分が呪詛師を斬れなかったことが一番の原因だ。
「謝るのは私だよ。私があの呪詛師をちゃんと戦闘不能にしておけば、伏黒くんはあの式神を呼び出さずに済んだはずなのに……私、肝心な時に迷って、結局やられちゃって」
「それは仕方ねぇだろ。オマエがそうなった原因は俺が作ったんだし……それに俺はオマエが大怪我することを知った上で調伏の儀式を強行した。オマエを発見するのがもっと遅れてたら、大変なことになってたかもしれねぇのに……」
「で、でも結果的に私は大丈夫だったから……それにやっぱり私の方が……」
不毛な謝り合いに昨夜と同じようにどちらからともなく小さく吹き出す。
いつの間にかなずなの涙も止まっていた。
「伏黒くんはあの時もう謝ってくれたよ。だから、ね、おあいこ」
泣き腫らして赤くなった目で、それでも心の底から出た笑顔。
あの時は悲しくて仕方なかったけれど、今は安堵と喜びに変わっている。
だが、伏黒にはまだ伝えられていないことがあった。
「……それもあるけど、もうひとつ、昨日のことも謝らねぇと」
「……へ?」
昨日の、こと?