第20章 10月31日 渋谷にて
伏黒も109周辺で見た状況を情報共有した後、夜蛾は要請があればすぐに出られるように待機するということで、去っていった。
まだ意識を取り戻さないなずなの静かな呼吸を聞きながら、握っていた手にもう片方の手を重ねる。
1人で考えても仕方ないのに、仲間の安否が気がかりでならない。
虎杖は?
なぜ宿儺に身体を乗っ取られたかは不明だが、今は宿儺の気配は消えているから肉体の主導権は取り戻しているはず。
単独でB5Fに行ったのか?
釘崎もだ。
新田さんと離脱したらしいが、家入さんにそれを聞いた時からもう1時間は経ってる。
その間、どうしていたかの情報が全くない。新田さんが一緒だから無茶はしないだろうが、どこで何してるんだ?
一般人の避難誘導をしていた狗巻先輩や別働班として動いていたパンダ先輩は?
もし109付近にいたら、あの一帯を更地にした攻撃に巻き込まれたんじゃないか?
目の前にいる渡辺だってまだ安心はできない。
昏々と眠り続ける姿は否応なく津美紀を思い出させる。
もし、怪我だけでなく何かの呪いを受けていたら?
……ずっと目を覚まさない可能性もあるんじゃないのか?
良くない状況が浮かんでは消えを繰り返す。
すると、その不安を和らげるかのように緩く手を握り返された……気がした。
「……ぅ……」
その掠れた声は伏黒にはっきりと聞こえた。
なずなの瞼が震えて、うっすらと目が開く。
伏黒は身を乗り出すようになずなの顔を覗き込むと、緩く視線をさまよわせた彼女と目が合った。