第20章 10月31日 渋谷にて
救護所に着くと、中はにわかに慌ただしくなっていた。
救急隊が出入りし、家入が鋭く指示を出しており、その足元では夜蛾の呪骸が忙しく歩き回っている状況だ。
緊迫した空気がこちらまで伝わってくる。
だが、早くなずなも診てもらいたい。
伏黒は意を決して家入の元へ歩いていく。
「家入さん!」
伏黒の声に家入が気づき、こちらを少し振り向いたが、すぐにまた後ろを向いてしまう。
「2人を病院へ搬送してくれ」
そう救急隊に指示し、伏黒の方に足早に歩いてきた。
伏黒に抱えられたなずなの容態を手早く確認していく。
「渡辺……は、ひとまず大丈夫そうだな」
いつも冷静な家入にしては珍しく安堵するように息を吐いた様子に、伏黒はただならぬものを感じる。
「“渡辺は”って、何かあったんですか?さっき運ばれた人は……」
「今は手一杯だ、後にしてくれ。渡辺は向こうのベッドへ。オマエもまだ碌に動けないだろ、休むついでに渡辺のことを見てろ」
救護所内は伏黒が猪野を運び込んだ時よりもだいぶ負傷者が増え、家入の処置を待っている状況だ。
何の優先順位が高いかなど考えなくても伝わってくる。
おとなしく家入の指示に従い、なずなを簡易ベッドに寝かせ、その傍らにパイプ椅子を持ってきて座ると、今まで感じなかった疲労感がどっと押し寄せてきた。