第6章 真昼の逃避行
「いつまでも引きこもっていても虎杖は戻ってこないわよ」
野薔薇の言葉になずなはビクリと肩を揺らす。
「何でアイツが死んだんだと思う?……私達が弱かったからよ……だから強くならないと。こんなところで立ち止まったって何にもならないわ」
俯いて返事をしないなずなにさらにたたみかける。
「アンタ、このままなにもせずボーッとしてて、本当にいいと思ってんの?次にあんなことが起こって誰かが死ぬってなったら、我慢できるの?」
「…………いよ……」
か細い声は野薔薇に届かない。
「聞こえないわよ?」
「そんなの、我慢できないよ……!」
我慢できるわけがない。
なずなの頬に涙が伝う。
今だって受け入れられないでいるのに、その上伏黒くんや野薔薇ちゃんまで同じことになったらなんて、考えるだけで頭がおかしくなりそうだ。
野薔薇は嗚咽を漏らすなずなを抱き寄せる。
「私だってそうよ。どうしようもなく弱くて、アイツを犠牲にしなくちゃ生き残れなかった。だから絶対に強くなる。もうこんなことは御免なんだから」
「……うぅ、ひっく、……うわぁぁぁん」
なだめるように優しくあやされ、なずなは声を上げて泣き出した。
「アイツが最期になんて言ってたか、聞いた?」
しゃくり上げながら、なずなは首を横に振る。
「『長生きしろよ』だって」
まだ会ってからそんなに時間は経っていなかったけれど、いつもの明るい口調でそう言っている姿が目に浮かぶ。
「……虎杖くんらしいね。私達、強くなって長生きしないとだね」
涙を流しながら、やっとなずなは少しだけ笑った。