第6章 真昼の逃避行
外、明るいな……
どうやって部屋に戻ってきたのか、昨日のことのはずなのに、ずっと昔のことかのように思い出せない。
昨夜、満身創痍で伊地知さんの車に乗せられ、家入先生の治療を受け、右腕は元通りになった。
もう怪我はないはずなのに、胸にぽっかり穴が空いたような感覚。
……なんだか懐かしい感覚……
家族が死んだときもこんな感じだった気がする。
また、失ってしまった……
少年院を1人でさまよった時の恐怖なんて、宿儺に右肘を砕かれた時の苦痛なんて、虎杖くんが死んだことに比べたら、本当に大したことない。
支離滅裂な思考を繰り返すうち、結局一睡もすることのないまま、外が明るくなっていることに気づいた。
ドアをノックする音も遠くに聞こえる。
それに答えるのも億劫で、ドアの方を眺めることしかできなかった。
「なずな、いるんでしょ?開けるわよ!」
野薔薇はノックしても返事がないなずなの部屋に突入した。
「のばら、ちゃん……」
床に座り込んだなずなの姿はそれはもうひどかった。
髪は乱れ、野薔薇を見上げる瞳からは光が失せている。それに昨日から着替えていないのか、右袖を切り裂かれた制服のまま。