第20章 10月31日 渋谷にて
伏黒がハッと目を覚ますと、そこは救護所だった。
呪力が枯渇し、体力も削がれており、上体を起こしただけで眩暈がする。
ここ……救護所か?
なんで、俺は生きて……
ズキズキと頭痛はあるが、刺された脇腹、斬られた背中、殴られた後頭部の傷はどれも既に塞がっていた。
調伏の儀式を始めてから今までの記憶がない。
あれからどのくらい時間が経った……?
なぜ傷が治ってる?
誰かが救助に来たのか?
一緒にいた渡辺は無事なのか?
呪詛師は……魔虚羅はどうなった?
五条と同じ六眼・無下限呪術の術師を倒せる魔虚羅と居合わせて無事では済まされない。
呪詛師のことはどうでもいいが、なずなの安否が気がかりで仕方ない。
鬼切はなずなの傍にあるはずだし、なずなの術式もたとえなずな自身に意識がなくても発動するタイプのもの。
殺されてはいないが、自力で動けなくなっている可能性はある。
そんなところを呪霊や呪詛師、改造人間に襲われればひとたまりもない……
回らない頭の中に疑問と不安がどんどん浮上してくる。
「伏黒、目が覚めたか」
「夜蛾学長……」
声のした方を向くと夜蛾がこちらに歩いてくる。
伏黒は思わず身を乗り出して尋ねていた。
「学長が助けてくれたんですか?近くにいた渡辺は?無事なんですか!?」
「渡辺が近くにいたのか・・・!」
驚いたようなその返答に伏黒の焦燥が噴出する。
ガタリとベッドから降りようとした伏黒を夜蛾が制止し、宥めるように話し出す。
「すまない、こちらも状況の全てを把握している訳ではなくてな。すぐに呪骸を救助に向かわせるから教えてくれ、渡辺はどの辺りにいたんだ?」
「……109前のスクランブル交差点の付近です……けど、学長でないなら誰が?」
あの調伏の儀式に踏み込んで自分を助けたのは一体誰なのか……
「落ち着いて聞いてくれ」
そう前置きして続いた夜蛾の言葉は信じられないものだった。
「オマエをここまで運んだのは宿儺だ」