第20章 10月31日 渋谷にて
周囲が跡形もなくなっていく中、魔虚羅はまだ原型をとどめていた。
その損傷具合から懸念していた斬撃そのものへの適応はなかったようだ。
反則的な再生も終わろうとしている。
「“開”」
先程漏瑚との戦闘で見せた烈火が魔虚羅を焼き尽くし、適応しきれない魔虚羅はやがて影に溶けていった。
重面が更地を前に呆然としていると、目の前に魔虚羅の円環が転がってきた。
宿儺が投げ捨てたそれは音を立てて横倒しになり、やがてどろりと溶けてなくなる。
「何を見ている……去ね」
宿儺は重面を見ようともしない。
重面としても目を合わせるだけでヤバい奴というのは直感できたので、そそくさと逃げるように走り出す。
「し、失礼しまーす」
また生き延びた
やっぱ俺は運がいい。
呪詛師 重面春太の術式は“奇跡”を貯める。
時計でゾロ目の時刻を見たなどといった日常の小さな奇跡を重面の記憶から抹消し貯える。
貯えられた奇跡は重面の命に関わる局面で放出される。
奇跡の多寡は目元の紋様で識別できるが、重面自身はそれを自覚していない。
「今日も生き延びた!!」
喜んだのも束の間、重面の頭部を前後に分つように線が入る。
「……?」
何が起こったのか、痛みすらも何も感じる前にズルッと腹面と背面が離断した。
奇跡的に生き延びたと思っていたが、そうではなかった。
重面が貯めた奇跡はもう既に尽き、ビチャリと生々しい音を立てて倒れ伏した。
ほんの気まぐれで重面を切り裂いた宿儺はどうでもいいと歩き出したが、すぐにその手が震え出してくる。
虎杖の適応が追いついてきたのだ。
肉体の主導権が移るのも時間の問題……その前にもう一つやることがある。