第20章 10月31日 渋谷にて
再び鬼切の刀身に指を添え、印を切ろうとすると、魔虚羅の背後にある円環が音を立てて廻った。
次の瞬間、ズブリと重い衝撃がなずなの腹部を貫く。
「えっ……」
信じられない光景が目に飛び込んでくる。
なずなの腹を剣が貫通していたのだ。
な、んで……?
これはさっき切り落とした右腕に括りついていたはずの……
腹から飛び出している剣を目で辿ると、そこには何事もなかったかのように、魔虚羅の右腕が剣を突き出していた。
なずなを貫いたまま、魔虚羅が右腕を振る。
なす術のないなずなはろくに受け身も取れず、1ブロック先まで投げ飛ばされ、道路に叩きつけられて転がった。
衝撃と激痛でまともに呼吸できない。
口から出るのはヒューヒューと漏れる空気の音だけ。
暗くなっていく視界、懸命に伏黒のいた方を向こうとするが、力の入らない身体は鉛の塊かと思うほど重く、少し地面を掻くことしかできない。
狭まる視界が水の膜を張ったように揺れる。
ごめんなさい、
本当にごめんなさい……
私があの呪詛師をちゃんと戦闘不能にしておけば、伏黒くんはこんなことにはならなかったのに、
私、もう迷わないから……
お願い、だから……
死なないで―……
なずなの意識はそこで暗転した。