第6章 真昼の逃避行
「でもそんな暇あるの?呪術師は人手不足なんでしょ?」
昨日の少年院で確かに伊地知からそう聞いた。
そんな野薔薇の疑問にパンダが今はなと答える。
「冬の終わり、冬季鬱から始まって春までの人の陰気が初夏に呪いとしてドカッと現れる繁忙期ってやつだな」
「年中忙しい時もあるが、ぼちぼち落ち着いてくると思うぜ。……で、やるだろう?仲間が死んでんだもんな」
「やる」
伏黒も野薔薇も即答だった。
虎杖に追いつけるように、胸を張れるように、絶対に強くなるんだ。
そのためならなんだってやってやる。
「でもしごきも交流会も意味がないと思ったらすぐ辞めるから」
「同じく」
1年2人の反抗的な態度に真希も満足げに笑う。
「ま、そのくらい生意気な方がちょうどいいわな。これから1ヶ月半、ビシバシしごいてやるからな」
「しゃけ」
1年生2人は参加確定。
とりあえず交流会に臨むにあたって最低限は集まった。
「向こうの2、3年の人数を考えるとなずなも誘いたいんだがな」
真希は考え込むように顎に手を当てる。
「そうだなぁ、1、2年メインで経験値的に劣る分、せめて頭数は揃えておきたいよな」
しかしなずなは伏黒や野薔薇と違ってこういう発破の効くタイプではない。
どうやって引き込もうか。
そんな先輩達の会話を盗み聞いた野薔薇は早速行動に出た。
「伏黒、私はなずなのとこ行ってくるわ」
「オマエ、あまり無理に渡辺を連れ出すなよ」
「アンタ、なずなに気を遣いすぎじゃない?……なに、気でもあるの?」
「……違ぇよ」
なずなはつい3ヶ月と少し前に家族を亡くしたばかりだ。まだその傷は癒えていないだろう。
その上虎杖を亡くして、伏黒もすぐ立ち直れとは言えなかった。
しかしそんなこととは露知らぬ野薔薇はまっすぐ女子寮に歩いていった。