第20章 10月31日 渋谷にて
倒れた伏黒とその下敷きになったなずなを跨ぎ、魔虚羅は重面の方へ行ってしまう。
伏黒が抱き込む形で庇ったため、なずなの意識が飛ぶことはなかったが、目の前で起こったことを受け止めきれず、なずなは息を詰まらせていた。
「……ぁ、ああ……」
伏黒くん……
私を庇って、こんな……
震える手で伏黒の後頭部を確かめる。
あの怪物に殴られたところ……
髪を分ける指先が濡れ、硬いものが割れているような感触に辿り着き、息を呑んだ。
……頭、割れてる……
なずなが這い出ても伏黒は力無く倒れたまま、殴られた箇所は真っ赤に染まっている。
恐る恐る自分の掌に目を移すと、そこにもべっとりと血がついていた。
息ができない。
血がついた手から目が離せない。
目の前の光景を理解することを頭が拒み、全身が震えてくる。
否応なくフラッシュバックするのは、あの日、鬼切の呪いに充てられ乱心した父から逃がそうとしてくれた光景。
―お父さん!?―
―母さん達は逃げろ!急げ!!―
足止めを試みた兄、背後から聞こえた母の悲鳴。
そして、目の前で斬られた弟―……
あの時と同じ……
嫌……
嫌だよ、嘘だと言って……
お願いだから、目を覚まして……
「ふざけんなよ!こんな……起きろよ!クソ術師!!」
切羽詰まった重面の声が聞こえて、なずなは緩慢に顔を上げた。
魔虚羅の巨体に隠れ、重面の姿はなずなからはよく見えない。
背中だけでも相当な威圧感を醸し出す魔虚羅になずなはヒュッと息を呑む。
あの怪物は信じられないくらい強い。
一目見ただけでそうだと理解するほど。
伏黒くんは殺された。
……殺された……?
この怪物は伏黒くんの影から出てきた。
だったら、彼の術式だ。
怪物が消えていないということは、まだ術式は解けていない。