第20章 10月31日 渋谷にて
「……は1人もいない」
……あ、れ……?
なんで、伏黒くんの声がするの……?
彼を追う途中で呪詛師と戦闘になり、気絶してしまった手前までの記憶がうっすらと蘇る。
あれからどのくらい気絶していたの……?
なずながゆっくり目を開けると、伏黒と目が合い、彼もそれに気づいて少しだけ眉尻を下げた。
「……悪い渡辺、先に謝っとく」
どうして謝るの?
私は大丈夫だよ。
怪我はもう治ってる、もう少しすればきっと動けるようになる。
それなのに、なんでそんな悲しそうな顔をするの……?
疑問とどうしようもない不安が湧いてくる。
そんななずなをよそに伏黒は言葉を紡ぐ。
「布瑠部」
やめて
「由良由良」
お願い、やめて
確証はない。でも取り返しがつかなくなると頭の中で警鐘が鳴り響く。
「八握剣 異戒神将 魔虚羅」
直後に聞こえたのは犬の遠吠え。
そして、伏黒の背後に屈強な人型の怪物が現れた。
その異様な呪力に戦慄していると、守るように伏黒に抱きしめられた。
彼の肩越しに怪物が太い腕を振りかぶるのが見える。
ダメ、早く……
早くここから逃げないと……!
伏黒くんも私もあの怪物に殺される!!
しかし、魔虚羅の呪力に竦み、一歩も動けなかった。
拳がこちらに落ちてこようとしているのを見ていることしかできずにいると、後頭部に伏黒の手が回され、更にきつく抱き込まれる。
次の瞬間、強い衝撃が伝わり、伏黒諸共なずなは地面に叩きつけられた。