第20章 10月31日 渋谷にて
「……悪い渡辺、先に謝っとく」
真剣な告白だったのに、それに応えられなくて……
それに、仮死とはいえ一度殺すことになってしまう。
一言だけ謝って、伏黒は調伏を始めるべく言霊を唱える。
「布瑠部」
「由良由良」
「八握剣(ヤツカノツルギ) 異戒神将 魔虚羅(イカイシンショウ マコラ)」
足元の影が広がり、伏黒を挟むように2列に並ぶ6匹の犬が現れ、遠吠えする。
その遠吠えに迎えられるようにして、影から大きな人型の式神が現れた。
筋骨隆々とした体躯、目はないが、その部分には2対の翼が生え、右手には手首に固定する形で剣を持ち、背中には円環が浮いている。
本来は式神を降し、自分の配下に置くことが目的の儀式。
当然、式神は本気でこちらに向かってくる。
まずは手近にいる上、満足に動けない伏黒となずなから狙うことは明白だ。
魔虚羅が左拳を振りかぶるのを見て、伏黒は咄嗟になずなを守るように抱きしめた。
不合理なことだと頭では分かっていたのに、身体が勝手に動いていた。
鬼切の反転術式を考えれば、まず先になずなを魔虚羅に殺させ、仮死状態となった後にできる限り時間を稼いで少しでも長く反転術式を発動させた方が生存率は上がる……はずなのに。
どこまでも身勝手な己に自嘲気味に笑うのとほぼ同時に後頭部に衝撃を受け、伏黒の意識は途切れた。