第20章 10月31日 渋谷にて
「要は式神は調伏しないと使えないが、調伏するためならいつでも呼び出せるんだ」
伏黒の呪力がピリピリと変質していく。
明らかに異質な呪力。
そして両手をそれぞれ握り締める。
「歴代十種影法術師の中にコイツを調伏できた奴は1人もいない」
伏黒の狙いは重面を式神の調伏の儀式に強制参加させること。
ここで調伏を始めれば伏黒の傍らにいるなずなも巻き込まれるが、その点は儀式の特性を鑑みてクリアできると判断した。
調伏の儀式はその継続のため、式神が倒されるか参加者全員が倒れるか、どちらかの条件が満たされるまで誰も死なない。
仮に式神の攻撃で致命傷を負っても儀式終了時までは仮死状態となる。
つまり、儀式中に即死することはない。
……そして即死さえしなければ、なずなは鬼切の反転術式で自分の傷を治すことができる。
たとえなずなが鬼切を手放してしまったとしても、鬼切本体が持つ呪いの効果で彼女の手元に戻ってくるから、どんな状況になっても反転術式は機能するはずだ。
「……ぅ、」
なずなが目を覚まし、伏黒と目が合う。
起き抜けでまだ状況を理解しきっていない。
しかし、情報共有する時間はもう残されていなかった。
これを使えば状況は打開できるが、おそらく自分は死ぬ。
彼女にとってはトラウマだ。心の傷を残してしまう。
だが、なずながあの呪詛師に嬲り殺しにされるのはそれ以上に我慢ならなかった。
そこまで考えて、ふと昨日の出来事を思い出す。
―す、好きです―
―へ、返事は……ま、また今度でいいから!!―
……結局、あの告白に返事できずじまいだったな。
オマエの気持ちには応えられない。
許してほしいとは言わない。
……でもせめて、生き延びてくれ。