第20章 10月31日 渋谷にて
ここで伏黒が斃れたら、あの呪詛師は回復して意識を取り戻したなずなをいたぶるだろう。
そんなことは絶対に許さない。
そう決意して伏黒は口を開いた。
「俺の“十種影法術”は最初にまず2匹の玉犬だけが術師に与えられ、それ以外の式神を扱うには、まず術師と玉犬で調伏を済ませなければならない」
術式の開示。
術式を明かしたという縛りによってその効果を底上げする手段だ。
だがもう伏黒には戦う力は残っていない。
「手持ちの式神を増やしながらそれらを駆使し、調伏を進めることで、十種の式神を手にすることができる」
「……終わり?」
重面は伏黒に近づけないため、つまらなそうにしている。
「調伏はな、複数人でもできるんだ。だが、複数人での調伏はその後無効になる。つまり当の術師にとっては意味の無い儀式になる……でもな、意味は無いなりに使い方はあるんだ」
疑問符を浮かべる重面のことは気にも留めず、伏黒が想起したのは1年程前の、まだ高専入学前のこと―……
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伏黒は五条に連れられ、五条家に来ていた。
ここに足を踏み入れた直後から五条家にいる術師や使用人からの刺すような視線を受け、その理由を五条に尋ねると、伏黒の父親の生家である禪院家と五条家は仲が悪いというのだ。
当主である五条が自ら連れてきたため、皆手出しはしてこないが、その心までは容易には変わらない。
要は禪院家にルーツを持つ伏黒が五条家にいることが気に食わないらしい。