第20章 10月31日 渋谷にて
23:05 道玄坂 109前―
背中を大きく斬られた伏黒は懸命に一歩一歩と歩いていた。
背中と脇腹からの出血が止まらない。
まだ……
まだ倒れるな、
アイツを渡辺に近づけさせるな。
地面に点々と落ちていく血が決して浅くない傷であることを物語っている。
今にも倒れそうな満身創痍の伏黒を重面は眺めているだけ。
襲撃できそうな位置だが、伏黒がその隙を見せないのだ。
「ちょっと前に戦った女の子もだけど、皆すごく強いね、ボロボロなのに俺に近寄る隙を見せない」
重面は遠巻きにしながら、でも、と続ける。
「そこの女の子は弱かったよ。俺に向かってきても全然斬れないの」
「うるせぇよ……」
重面を遮る声すら出すのがやっと、もう倒れるのも時間の問題だ。
その出血じゃ、何もしなくたっていずれ……
思った通り、伏黒はなずなの元へ辿り着くと、力尽きたように膝から崩れた。
あーあと残念そうに、だが少し楽しげに重面は笑う。
なずなの傍らに座り込んだ伏黒は、真っ先に血が乾ききっていない細い首元に触れ、呼吸と脈を確認する。
トクトクと規則的な拍動、息もしっかりしている。
……大丈夫だ、生きてる。
続いて足の血痕、何かにぶつけられたような痕が残る額も確かめる。
地面に広がる血痕からそこに頭を叩きつけられたことも窺えた。
血はもう止まっているし、傷口も塞がっている。
命に別状がないことに安堵し、息を吐くと、涙の滲んだなずなの目尻をそっとなぞった。
鬼切を人に向けるのが怖いと言って浮かべていた悲痛な表情が脳裏にフラッシュバックする。
敵といっても人間相手なのは変わらない。
周りに味方がいない状況で、伏黒を追いながら呪詛師との戦闘を強いられ、首を切られ、足を差し貫かれ、頭を地面に打ちつけられ……怖かったに違いない。